いわゆる「むち打ち」における治療費打ち切りへの対応

 平成30年5月に甲東園で整形外科を開業するため準備をしている医師の佐々木です。
 現在は別の医療法人が運営する整形外科の分院長を勤めておりますが、最近、交通事故の患者様で事故後3ヶ月程度で治療費の打ち切りを通告されるケースが増えていると感じます。本稿では「治療費打ち切り」問題を考えてみます。

交通事故と治療費打ち切りの問題

 交通事故で被害に遭われた場合、相手方の任意保険を使って治療するのが一般的です。保険業界でいう「任意一括対応」となるため、被害者の方が窓口で治療費を負担されることはありません。
 この任意一括対応の場合、むち打ちでは通常半年程度保険会社が治療費を負担していました。

 けれど、最近は3ヶ月程度で治療費の支払いを打ち切ってくる事例が増えています。これには一定の傾向が感じられるのですが、詳細についての記載は控えます。

任意一括請求とは

 自動車保険は強制保険である自賠責保険に任意保険を上乗せする二重構造になっています。自賠責保険では傷害による損害として一人あたり120万まで補償を受けることができますが、それを超えた分は任意保険会社に請求することになります。つまり損害額全体が300万円とすると、120万円は自賠責保険を取り扱った保険会社に、180万円を任意保険会社にそれぞれ請求することになりますが、これでは不便です。

 そこで「(自賠責保険と)任意(保険を)一括請求」できる制度が設けられた、というのが簡単な説明となります。

 この制度では、自賠責の分も含めて全て任意保険会社へ請求することになります。任意保険会社は自賠責保険分の120万円を立て替えて後で請求する、ということになります。

 本来、120万円までの治療費については被害者様が一旦自分で立て替えて全額を医療機関に支払い、それを自賠責保険へ請求することになりますが、交通事故に遭われた患者様にそんな負担を課すのは忍びないということで、任意保険会社がサービスとしてやっています。

 ここで大切なことは、この立替払いは任意保険会社の「サービス」として考えられているため、それを打ち切られても対抗する手段がない、ということです。

打ち切りに対する対応について

 治療費支払いを打ち切られた場合、自費で通院を続け治療終了後に直接自賠責保険に請求するか、健康保険に切り替えて治療を継続することになります。
 患者様の中には法律専門家に依頼して治療費支払いの継続を求められることもあるようですが、それで支払ってもらえる期間が延びたという経験はほとんどありません。

 自費で通院を続ける場合、全額を窓口で支払うことになり、患者様には大きな負担になります。また、自賠責の「枠」は120万円までしかなく、それを超えた場合任意保険会社が治療費として認めるかは分かりません。
 ですので、実際上は健保通院に切り替えることが一般的です。

 ただ、理解のない医療機関では「健保通院は認めない」としてあくまで自己負担を求められるケースがあると聞き及んでいます。これは医療機関の理解不足で、健康保険で通院することも可能です(ただし、窓口負担は発生します)。

交通事故診療にも積極的に取り組みます

 病院ではスポーツ整形や救命救急を担当していましたが、町のクリニックでは交通事故でお困りの患者様が多いことに当初は驚きがありました。
 被害に遭われ、なおかつ保険会社の対応等でお困りになっていらっしゃる患者様を目の当たりにし、保険、労災に関する知識も積極的に吸収してきましたので、こういった経験、知識も甲東園で開業するクリニックで役立てていきたいと考えております。